大事なポイントはたいてい一つきり
文芸春秋六月号掲載の柳田邦男による辻井喬のインタビューを読んだ。辻井喬とは、堤清二(堤義明にあらず)の筆名である。下山事件について語りあっていた。
下山事件とは昭和二十四年七月六日に下山国鉄総裁が常磐線線路上でバラバラの轢死体となって発見された事件だ。最終的に自殺とされたが、はっきりと決着はついていない。柳田と辻井は、精神的に追いつめられた経営者が自殺したという説をとっていた。
違うと思う。
『日本怪死人列伝』(安部譲二 扶桑社、文庫あり)で安部譲二が展開していた他殺説には説得力がある。
一番納得させられたのは、下山と東大で同期の親友だった安部の父の言葉である。彼は自殺説を知り、こう叫んだという。
「下山が自分の仕事場で、自殺なんかするものか」
安部はこう書く。
国鉄総裁である親友は、絶対に自分の職場を自分の血と屍で汚すようなことはしない。
部下に自分の遺体を片付けさせるようなことは、上に立つ者としてするわけがないと、父は確信していた。
柳田は辻井にこう聞いてみるべきだった。
「辻井さんが悩める経営者として死を選ぶなら、やはり飛び込むのは西武鉄道ですか?」
画像
砂場。
書籍データ
すみません[本]カテゴリなのにデータを忘れていました。
わたしが読んだのはハードカバーですが、今回は文庫をご紹介。