おとしよりに話を聞こう。
以前いたアパートの大家さんは九十二歳だった。
二十世紀末に九十二歳だから、当然明治うまれ、二次大戦中には三四十代で、今のわたしと同じくらいだったわけだ。
二三度お茶をよばれたりごはんを食べにいったりしたが、そのときに聞くむかしの話がおもしろかった。こんな具合である。
- Akimbo(以下「あ」)
- 戦時中にはなにを。
- 大家さん(以下「大」)
- 四谷のあたりで喫茶店をね。
- あ
- へぇ、上智大学あたりで。おしゃれだなぁ。
- 大
- ジャズのレコードがたくさんあってね。
- あ
- ますますおしゃれだ。
- 大
- でも、戦争がすすんで、やめちゃったんです。
- あ
- なるほど。物資がすくなくなってから。
- 大
- いえいえ。物資はありましたよ。実は、戦争がすすむにつれて、行列ができるようになって。それがいやでねぇ。
- あ
- はぁ。…いよいよもっておしゃれですねえ。
足しげくかよい、きき書きでもすればよかったとおもう。
知識ではなく、その時代の空気、そこに吹いていた風のようなものをもっと感じたかった。
その後大家さんは旅だち、わたしは転居した。
帰省なさるかた、機会があったら是非年配のかたがたにむかしの話をきいてみてください。