コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

イムジン河(2)

『パッチギ』の主役は、実は人間ではなく、『イムジン河』というフォークソングである。
北朝鮮の朴世永が書き、松山猛が訳した詞は、イムジン河の自然と国を引きさかれたかなしみをしずかにうたう。
これに、高宗漢が作曲した堂々として比類ないうつくしさをもつメロディーがくわわるこの歌は、ザ・フォーク・クルセイダーズの最高傑作だろう。
さらに発売および放送の自粛という受難のエピソードまでくわわり、『イムジン河』は神話になった。
『帰ってきたヨッパライ』をはるかにしのぐ大ヒットになっていたはずのこの曲が自由に発売され放送されていたらどうなっていただろう。
「北」へゆく人がふえたのではないか。ある人は祖国の南北統一を夢み、ある人は人民の理想国家に参加するために。今では冗談のタネでしかないが、当時の北朝鮮は、事情にうとい人には地上の楽園だった。実際かなりの数の日本人が北朝鮮にわたったのだ。
そう考えると、発売や放送の自粛は結果的におおくの人を救ったにちがいない。よい歌がかならずしもわれわれをよい方向にみちびいてくれるとはかぎらない。
北にわたった人々は、今どうしているだろうか。