コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

「惨事のあなた」、あるいは、「水に落ちた犬は徹底的に叩け」

五月三十日雨。会社の喫煙室で後輩が「台風、きませんかね、なんか台風くるとワクワクしません?」と言った。「へえ、新潟出身でもそう思うんだ。台風慣れしてる九州出身者だけの感想かと思ってたよ」、「台風が発生すると、「さあ来いっ、暴れろっ、木を倒せ、もっとやれっ」って、思いますよね」、「…正直なヤツ」。
われわれは大惨事が好きだ。山本夏彦の口吻をまねて言うと、「われわれは女の裸が、血みどろが見たい」のである。テレビやラジオはそのためにある。
わたしがアメリカにいた一年間には阪神大震災地下鉄サリン事件という、日本の安全感覚をきっぱりと変えてしまう事件が起こっている。第一報はいつも母からの電話だった。
「顕範ね、今、大阪(東京)が凄いことになっとるとよ」という母の声には、いたましい事件への同情とともに、いくばくかのワクワクが含まれていた。もちろん母の子であるわたしも同じように反応した。そういうものだ。
そのやましさの帳尻をあわせるため、メディアはこぞって行政や社会や犯罪者の親や、はては現場に駆けつけなかった社員まで、わかりやすい責任者を祭りあげ、徹底的に叩く。そういうものだ。

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うまい棒