コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

品川駅港南口、午前六時半、雨。

かつては大きな食肉卸売市場が幅をきかせ、めぼしい建物は電話局のほかにホルモン屋かパチンコ屋ぐらいしかなかったというこの一帯は、再開発を経て垢抜けた巨大ビルが立ち並ぶオフィス街への変身を成し遂げた。
しかしその小綺麗な人工街と道を挟んだ隣にはまだ卸売市場がひっそりと存在しており、時折オフィス街の中庭で昼食を楽しむ会社員たちの耳に諦念したような牛の鳴き声を風にのせて届けることでささやかな自己主張をしている。
昨日から降り続いている小雨の中、俺は品川駅港南口広場の喫煙所で吸いたくもない煙草をふかしながら、昨夜依頼人の女から見せられた写りのよくない隠し撮り写真の容貌を、まだまばらな人通りのなかに見つけだそうとしていた。
なんて、下手なハードボイルドごっこなんてしていると、今晩も会社に泊まるはめになりそうだな。
よし、顔を洗って仕事しよう。
【2005年10月05日 東京都港区】