コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

「ばってん」

ずいぶん前、栃木県に出張しタクシーに乗ったときのことである。
つれづれに運転手さんと話をしていると、北関東のなまりなのか、会話のなかによく「ハァ」という言葉がまじる。「それがハァ、……」という感じ。思いきって聞いてみた。
「あの、その「ハァ」というのはどういう意味ですか?」
思いがけない質問におどろいたのか、運転手さんは一瞬つまったが、考え考えこたえてくれた。
「それは、……「しかし」、という意味ですね」
エウレカ。それまで「ああ」だの「ええと」だのといった間投詞の一種かと思っていた言葉が逆接の接続詞だったことが新鮮なおどろきであるとともに、以前からうっすらといだいていた別の疑問にも答がでたような気がした。
まだ会社の新人研修をうけていたころ、寮で同室だった同僚(関東原住民)が、わたしが九州出身であったためか、よく博多弁をまねてしゃべっていた。
多分親近感をあらわそうとしてくれていたのだろうが、それがなんにでも「ばってん」をつけるというまねようで、なかなか癇にさわった。
「ばってん」は九州北部で使用される言葉で、おおよそ標準語の「しかし」や「けれど」とおなじ意味をもつ。つまり北関東における「ハァ」と同様、逆接の接続詞である。
ところが、他地方出身の人にはこれがなかなかピンとこないらしい。博多弁をまねるときには「ばってん」をつければそれらしくなるだろうと意味も考えずに多用するというあやまりも出てくるわけだ。かつての同僚の動機がやっと理解できたよ。いやだからといってどうということはないけど。
ついでに書いておくと博多弁の「〜くさ」はおおよそ語尾に使う「〜ね」に相当する。だから、「ばってんがくさ」というのは「でもね」というような意味だ。本当です。

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ジャケットのセンターベンツにとめてあった「ばってん」。
購入してから一週間ばかり気づかずに着ていた。