コールスロー

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お返事進行状況/「べらぼう」ふたたび

お返事進行状況

おひさしぶりです。
先日から、ずいぶんほったらかしにしてしまったコメント欄(ホントごめんなさい。にもかかわらずコメントをくださるみなさま、ありがとうございます。Akimboはみなさまのおかげで生きております)へのお返事を、古いほうのエントリからちょぼちょぼ書きつづけております。
この「信債*1」、完済状態になったらまたおしらせします。

「お返事」増刊号 - その後の仁義なきべらぼう野郎

昨年九月十四日のエントリ、「ベラボー橋の下、テヤンデェ川は流れる(id:Akimbo:20070914)」にnnhさんからいただいたコメントに触発され、お返事を書いていたのですが、とてもコメント欄におさまるような長さではなくなってしまったため、エントリに格上げします。



ここまでたどりつくのにべらぼうに時間がかかってしまいましたが。

nnhさん

どうもどうも。いつもながらの要点を押さえた調査とご教示、ありがとうございます。
わたしもnnhさんを見習うべく、時間を見つけて千代田図書館日本国語大辞典などを見てみました。
当然「べらぼう」は立項されていたのですが、この項目だけで千文字以上の解説がありました。いやさすが全十三巻(プラス別巻一)ある「大辞典」です。
これをケータイでまるまる写すのはしんどいので、語源解説のところを引用してみますね。

    1. 引用文中、〈二〉は一般名詞として「たわけもの」をあらわす「べらぼう」のことで、〈一〉は江戸時代に流行した見世物の「便乱坊」です。
    2. 辞典は基本的に「語源順に配列する」らしい(凡例未確認ですが)ので、「日国大」は「便乱坊」説を採っているということなのかもしれません。

[語源説](〈二〉について)(1)〈一〉の男の名から〔本朝世事談綺・蘿月庵国書漫抄・摂陽奇観・燕居雑話・松屋筆記・和訓栞・大言海・ことばの事典=日置昌一〕。(2)ヘラバウ(篦棒)の義。穀潰の意か〔大言海・ことばの事典=日置昌一〕。(3)薄弱萎軟をヘラヘラ・ベラベラということからか〔大言海〕。(4)ヒラボウ(翩坊)の義〔名言通〕。[発音]ベラボー〈標ア〉[0]〈京ア〉[0][辞書]ヘボン言海

いや、ケータイの辞書にない漢字ばかりで、参りました。ついうっかり[発音]や[辞書]までうつしているし。



こうしてみると、「親亀」は大言海あたり*2で、各辞書はそこから一番可能性が高いものを流用しているのではないかと思います。
でも、どうでしょうか、この語源説。
そもそも、なぜ見世物の奇人に「便乱坊」という、いかにも当て字のような名前がついたのかがわからないと、これが語源とはいえないような気がします。この「便乱坊」とは別の「べらぼう」があり、それに「便」、「乱」、「坊」という字をあて、見世物の名にしたと考えるのが自然でしょう。
愚考するに、この見世物が好評を博した千六百七十年ごろには、すでに江戸あたりでは「べらぼう」という言葉は単なる流行語から広く使われる一般的な言葉に変化していたのではないでしょうか。
それがなぜ上方の見世物の名前として登場したかですが、百二十パーセントあてずっぽうでいうと、この奇人は西の文化圏で「東人(あづまびと)」と呼ばれた江戸の野蛮人たちのカリカチュアなのだと思います。
当時の新興都市江戸からやってきた、元気はよいけれど荒っぽくて洗練などとはほど遠いような人々を、文化爛熟期にある上方の人たちはあまり好印象をもっては見なかったでしょう。そんな「成り上がり」たちをみると、しきりに「べらぼう」と言っています。
「変なやっちゃらやなぁ。なんや、べらぼうて、坊かいな棒かいな」
やがてこれが江戸っ子をあらわす隠語のようになり、最終的には下品を売り物にした見世物のタイトルに使われた、と。
うわぁ〜っ、うさんくさ〜いっ*3
それに、そもそもの問題だった「べらぼう」の語源が棚上げになっちゃってますね。

ええと、つまり結局「べらぼう」の語源は、他の大部分の言葉の語源と同様、「わからない」というのが正解なのでしょうね*4

*1:書かなければいけないお返事のこと。高島俊男さん命名

*2:これも未確認ですが、[辞書]のところに「ヘボン」とあるのは「和英語林集成」のことでしょう。和英なので、語源解説はないと判断しました。

*3:でも、柳田国男の「糞はめ→くさめ」説がもっともらしく教科書に載っていたりする(学校ではじめて読んだときには感心しましたが)ので、ブログでこのくらいのこと言っても、バチはあたらないよね。……あたるかも。

*4:ヤン・ヨーステンやウィリアム・アダムス(三浦按針)の口癖が「ブラボー(すっげー、ぐらいの意味で)」だった、なんてことがあるとおもしろいかもしれません。