コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

健康帝国ナチス

ナチス」と聞くと、現代のわれわれはまずホロコーストや総統への忠誠、そして、ゲルマン民族の優秀性の盲信といった狂気の側面のみを連想してしまう。しかしこの本では、ナチスドイツとはまずなによりも「健康」を重視した国家だったことがしめされている。
ナチスドイツは、すべての国民が健康に生活し、全力をつくして労働に邁進できるように、さまざまな運動をした。例をあげる。

  1. アスベストの追放
  2. 自然食品の普及
  3. 禁酒運動
  4. バターの着色禁止
  5. 煙草撲滅運動

現在われわれが常識としている健康知識がほぼ網羅されている。ナチスドイツは一歩進んだ健康国家だった。
この延長線上に障碍者、同性愛者、そしてユダヤ人への迫害があるのだ。国民全体の生産性および清潔感向上に寄与しないものは、容赦なく強制収容所に送られた。有名なアウッシュビッツ収容所の門には「労働は自由への道」と書かれていた。わたしは、健康志向とこれらの愚行は「正気と狂気の二面」ではなく、表裏一体、あるいは、一貫性をもつと考える。
ひるがえって日本では、「健康増進法」なるものが施行された。その第二条にこうある。

(国民の責務)
第二条 国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。
健康増進法条文」より。

小泉総統のもと、いまやふたたび健康は全国民の義務となった。正気か、厚生労働省?

書籍データ

健康帝国ナチス
ロバート・N.プロクター著・宮崎尊訳

出版社 草思社
発売日 2003.09
価格  ¥ 2,310(¥ 2,200)
ISBN  4794212267

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