コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

女性むきの職業

海外の科学解説書をよく読むが、最近、購入する際に翻訳者名を確認する癖がついた。好みの翻訳者がいるわけではない。女性か否かを確認しているのだ。
以前から感じていたことだが、あまたある仕事の中で、翻訳に関しては総じて女性の方が達者なのではないか*1。もちろんわたしの読書範囲などはかぎられたもので、一斑で全豹をおしはかっている気配も濃厚だが。
わたしが感じる男性の翻訳と女性の翻訳の一番大きなちがいは「男性飜訳者の文章には訳者の個性がでている」ことだ。丸谷才一池澤夏樹など、英語の達者な男性作家が英米文学を飜訳した際にその傾向は顕著だ。
しかし、訳文に翻訳者の個性がありありとでてしまってよいものだろうか。「味噌の味噌くさきは味噌にあらず」という。いかにも訳者の個性があふれている文章を訳文とはいえないだろう。
逆に、女性が飜訳した文章は訳者が透明になりおおせている場合がおおい。達者な人ほど翻訳者の痕跡を隠し、読者を直接作品へむかわせてくれるようにみえる。
これは性差によるものか、それとも単にわたしが男性だからそう感じるだけなのか。

*1:これを「訳者が一枚上手」という。©筒井康隆