忘れられない怪談
その島のはずれには断崖絶壁と波に洗われる磯をもつ岬がある。絶好の釣場であるが遭難も多く、相当な釣り好きか自殺者ぐらいにしか用のない場所で、普通の島民は敬遠していた。
嵐の日、ある人が釣り仲間の家を訪れ、今からその岬に釣りに行こうとさそった。仲間は断ったが、その人はまるでなにかにとりつかれているような様子で一人でも行くといいはる。結局仲間の忠告にも耳をかさずに岬にむかい、その日遭難して命を落としたという。
いかがですか。岬にいるなにものかが犠牲者を呼んだという印象を与えられるよう工夫したのだが、成功しているだろうか。
この話をしてくれた知人(釣り仲間の息子)もそう考えていたらしいが、思いこみで因果関係をとりちがえている。
話者の意図にしたがうと、
- 岬にはなにかがいる
- 釣り好きが呼ばれた
- 岬に行った
- 命を落とした
となるが、普通に考えると、
- 釣り好きがいた
- 嵐に興奮し、釣りに行きたくなった
- 遭難した
これだけの話だ。「とりつかれた様子」はあとづけの脚色だろう。
論理は強力無比な道具だが、うっかりすると容易に足下をすくわれる。そんな例をみるたびにこの話を思いだす。
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