コールスロー

世界というジグソーパズルの1ピース

「私の」ではなく「わたしの」、「履歴書」ではなく「渡世日記」

『わたしの渡世日記』(上下巻 高峰秀子 文春文庫)は大正十三年生まれの女優、高峰秀子が生い立ちから結婚するまでの三十年間を現在(といっても昭和五十年頃)の生活もまじえながらつづった自叙伝である。
まず著者の人生そのものがすごい。生母の死によっておばに引き取られ、五歳で子役としてデビュー。養母との確執と貧乏との三人四脚で日本映画の黄金時代と二次大戦を駆けぬける。本書はまるで、すべての少女小説のネタ本のようなのだ。
にもかかわらず、文章はサッパリとして気持ちがよい。

ズシン! といった感じで、巨匠小津安二郎は座っていた。

擬音語や擬態語を多用しているが稚拙な感じはせず、逆にこのリズムに小気味よさを感じる。描写は的確で、著者の記憶にある情景や人物評が読者の頭の中にそのままくっきりと投影される感じ。こういう文章は読むだけで快感である。
くわえて、この文章から垣間見える著者の人柄も魅力的だ。本書にも登場する谷崎潤一郎志賀直哉梅原龍三郎、はては新村『広辞苑』出(しんむらいづる)までが「デコちゃん」をひいきにしていたのもうなづける。
未読の人、すぐに書店へ走るべし。

画像

CHANEL@銀座。

書籍データ

わたしの渡世日記 上
高峰 秀子
文芸春秋 (1998.3)
通常2〜3日以内に発送します。

わたしの渡世日記 下
高峰 秀子
文芸春秋 (1998.3)
通常2〜3日以内に発送します。