『風雲児たち』
みなもと太郎作の歴史大河ギャグマンガ。
幕末を描くはずが、そのもともとの原因となった関ヶ原から話をはじめてしまったため、江戸時代のあちこちにも寄り道することになり、開始から二十五年、単行本はワイド版二十巻*1、幕末編五巻となっているのにいまだ終わる気配をみせない。お願いだから作者存命中に完結してくれ。いや、わたしの存命中にぜひ。
とにかくおもしろい。歴史を追いながら、随所に関西風のずっこけギャグが挿入される。そしてときどき泣ける。このようなかたちのマンガは空前絶後だろう。
最新刊の幕末編五巻では、椎本イネの登場シーンがよかった。
イネはドイツ人シーボルト*2とお滝さんのあいだに生まれた女の子。
ハーフであるためにさまざまなそしりや差別をうける。極めつきは、産科医になるために師事した石井宗謙に「外国女性のからだの構造を知るため」と手籠めにされ、子供をやどしてしまう。ここまでは前巻までのあらすじ。
五巻でイネは、つぎの師匠を長州藩の蘭方医、村田蔵六(のちの大村益次郎)とさだめ、黒船建造のために長崎にきた蔵六をたずねる。このふたりの会話が泣けるのである。
- イネ
- イネは子供の頃からこの外見(すがた)に悩んできました。
誰にも言わなかったけれど…。
どうして私の目は青いのですか……?
どうして肌がこんなに白いのですか。
どうしてこんな髪の色なのですか。
どうして?
どうして?
どうして!?
蔵六がたずねる。
- 蔵六
- イネ殿は、その姿がお嫌いなのですか。
- イネ
- 美しいとは思いますけど。
ここで小さなコケ。画像参照。
村田蔵六はそっけない朴念仁である。このようなことをたずねるのに一番不適な人間のようだが、蔵六はこたえる。
晴れ晴れした顔で涙をながすイネ。蔵六にたのむ。
- イネ
- もう一度言ってください…。
- 蔵六
- 聞いてなかったのですか。
- イネ
- もう一度言ってくださいッ。
- 蔵六
- ですから、
髪の色も皮膚も目もすべてメラニン色素の違いにすぎません。
泣き崩れながらなおもたのむイネ。
文章だけでは伝わらないかもしれないが、いいシーンなのだ。なんど読んでも泣ける。そして、歴史のなかでこのふたりがであったのが奇跡のようにおもえてくる。
わたしなんぞの推薦じゃあアテにならないというムキには、敬愛する高島俊男先生が名著『本が好き、悪口言うのはもっと好き』に書いている賛辞*6を紹介します。
しかし何よりも、あたえられた時代を、元気に、真剣に、精一杯生きた日本人たちへのすばらしい賛歌になっていること、これこそがこの作品の、最大の身上であろう。
う〜ん、高島先生、うまいなあ。
ほんとうは『風雲児達』をもっと早くオススメしたかったのだが、高島先生の紹介文を知っているため気おくれしていたのだ。
しかし、いつまでたってもこの文章以上のものは書けないだろうから、五巻入手を機に紹介します。
おもしろいですよ〜。回覧可。
書籍データ
今日の画像
上記シーンから。